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アクセルしかない車

アニメ エッセイ

「この世界はアクセルしかない車だから ――
彼の特徴のないメガネのふちが光ったような気がした。 

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前回の記事では僕のアキバ系趣味から電子工作のお店について書いた。最近はCharlotte(シャーロット)の記事ばかり書いている。半ばアニオタブログと呼んでも差し支えないだろう。ならばアキバ系のもう一つの側面に触れねばなるまい・・・。

今回は深夜アニメとの出会いについて振り返ってみたい。

僕はナチュラルボーンなオタクではなかった。学生時代からオタク趣味に目覚めていたわけでもない。ギターを弾いたり、ロックのレコードを聴いたり、服に金をかけたり、体を動かしたり、DIYで物を作ったりというようなアニオタとは異なる趣味を持つ人間だった。もっとも時代なだけで今のオープン化された時代に学生生活を送ればどうなっていたかは分からない。素養はあっただろうし、上記の趣味にも共通するような所はあるとも思う。

僕がアニメにはまったのは社会人になってからだ。

所属するSIer企業でエンジニア的な仕事に就き、少し慣れてきたかなという頃の話だ。

この仕事、業界の例に漏れず業務状況によっては深夜の帰宅がデフォルトとなる。家につくなりレコードを掛けて好きな音楽を聴きつつビールを飲んでわずかばかりの自分の時間を楽しむのが日課だった。

ある日のこと。10時間にも及ぶ打ち合わせによって脳が随分と疲れた日があった。なんとかコンビニでビールを買い込みヘトヘトになりながらも帰宅する。

だがそこまで。スーパードライのプルタブを引く力が最後、レコードをセットする力はもう残っていなかった。仕方なしに普段はあまり見ないテレビをつけてみることにした。

まどろみの中で観たもの

TVの画面の向こうではピンクの髪した女の子がしゃべっていた。

「ああ。これが萌え系のアニメってやつか。となりの席のTさんみたいなオタクがみるやつだな~」

嘲りを含むが、ごく一般的な反応でもあるだろう。

「ふ~ん。最近こんなの流行ってるのかよ・・・」

チャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばすも、音楽が耳に引っかかる。BGMの音楽がやけに心地良いのだ。

不思議とまどろみながらエンディングまで見入ってしまった。

「ふ~む。今のはなんだったんだろう・・・」

疲れていたのか、そのまますぐに寝てしまった。

Tさん

会社のとなりの席にはTさんという方がいた。僕より少し上の世代のエンジニアでたしかな技術を持った人だった。

ただTさんのパソコンの壁紙はよくわからない2次元アニメキャラだった。机の上には小さいサイズだがフィギュアが2体並ぶように置かれていた。

僕は内心「Tさん・・・。これはアカンでしょ。いくら技術があれどいい大人がこうなっちゃオシマイだな」なんて思ってた。正直引いていた。できるだけそのことに触れないように、苦笑いが顔に出ないようフィギュアが視界に入らないように注意してTさんと接していた。

ふたたび

次の週。また会議のオンパレードで帰りが遅くなる。先週と同様にヘトヘト。TVをつけてみる。やっていた。例のアニメだ。またピンク髪の女の子がしゃべっている。金色の髪の女の子も出てくる。

そして音楽がとても心地よい。・・・

またエンディングまで見てしまった。

ふと思った。

「あれ? これ面白くないか? いいのか!?」

妙な予感がする。体が震える・・・。

貸し出し

もしかしてTさんなら何か知ってるかもしれない。会話のついでに聞いてみることにした。

僕「昨日夜、TVでアニメやってたんですよ。ピンクの女の子が出てくる奴・・・」

Tさん「それは ARIA だね」即答だった。

僕「(さすが早いっ!)いや、僕そういうの始めてみたんですけど意外と面白いなあって・・・」

視界にあるフィギュアをチラチラ見ながら、Tさんと会話する。

Tさん「ARIAはとても面白いよ。今は二期で ARIA The Natural ってタイトルなんだ。音楽が効果的に使われていて、声優は誰だったけな・・・」

まるで技術用語を説明する普段と変わらないテンションで淡々と説明を続ける。

僕「・・・へぇ。来週も見てみますね」

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数日後の朝、席につくなりTさんがデパートの袋を差し出してきた。はて? プレゼントなんか貰う義理があったかと戸惑っているとTさんが一言。

Tさん「一期の録画持ってきたからよかったら観てよ」

 中身はDVDだった。ARIA The Animation と書いてある。放送日やら局やらが細かく記された丁寧なラベルは紛れもなくTさんの仕事だった。

アクセルしか無い車

それからしばらく「家に帰るなりビールとレコードの生活」から、「家に帰るなりビールと ARIA」 の生活に変わっていった。

事実、ARIA はとても面白いアニメだった。美しい非日常な世界の日常を描き、良質なBGMで彩る癒しのストーリー。今まで触れたことが無い感覚。こう熱くなるのもキモいが総合芸術という印象を持った。

同時に危機感を覚えた。「たしかに面白いがインスタントすぎる。サービスが効きすぎている。こんなのを見る大人が増えているのだから大変だよな」とも思った。

だがそのステレオタイプな危機感も ARIAの持つ魅力の前に少しずつ霞んでいった。結局1週間ほどで借りたDVDの中身は消費してしまった。

Tさんにお礼を言いながらDVD返した。どうだった? と聞かれるので初めて深夜アニメを見たがこんなにも面白いとは思わなかったと返答した。

そして会話の流れがそうさせたのか、自分の意思かは今でも謎なのだが次の言葉を口にしてしまう。

僕「他にも面白いのがあったら教えてください・・・」

 

Tさんはニヤリと笑いながら言った。

「気をつけてください。この世界はアクセルしかない車だから ―――」

それから

Tさんのセリフにはロックを感じた。僕がロックに感じていたもの=ブレーキの無い車、同じものだった。Tさんに色々と借りて勉強させて貰った。当時話題になった00年台アニメ史に残る傑作「涼宮ハルヒの憂鬱」も借りた。

僕はいうなれば「ハルヒ以降のニワカ」なわけだ。Tさんのように学生時代からオタク道を貫いてきたわけでもない。あまりオタクとは名乗りたくない。気恥ずかしいのもあるが、道を邁進してきた本気の人たちへのリスペクトな気持ちも半分くらいはある。

それからアクセルを踏んだり緩めたりしながらも、色々なアニメやその原作に触れるようなことをして来た。だいたい各クールに2、3本話題になっている作品を中心に観ている。今はこうしてブログに感想を綴るようになってしまったわけだ。

知識も増えてきた。TさんのPCの壁紙のキャラクターが「水銀燈」だったことや、並んでいたフィギュアが「高町なのは」と「セイバー」であることも今ならわかる・・・

来春にはハルヒ放送から10年というのだから恐ろしい。僕も当時のTさんに抱いた「いい大人がこうなっちゃオシマイ」な状況かもしれない。

アクセルしかない車か・・・年々この言葉の重みが増してくる。さすが僕の師匠だなとため息をつく今日この頃である。

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今週のお題「思い出の先生」

ARIA

最初に観た作品がこれというのも大きいかもしれない。ARIAについてのエントリーを書こうと何度もトライしたが、素晴らしすぎてうまく言葉に表せず、下書きがいくつも溜まっていく。もし見たことが無い人がいれば是非見てほしい作品だ。Blu-ray Box も発売されるし、今月には新作劇場版も公開されるし、ここからしばらくARIAが熱い。

またBGMが素晴らしい。ヒーリングミュージックというジャンルがある。「気分が楽になる~」とか「α波のゆらぎ~」とかそんなジャンル。そういうCDをお探しなら、なによりもまず本作のサウンドトラックを聴くことをすすめたい。

ARIA The ANIMATION オリジナルサウンドトラック

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もちろん天野こずえさん原作の漫画も素晴らしい。アニメはこの原作があってこそだ。絵もとても綺麗。どうしてこんな世界を思いつくんだ?という天才っぷりに驚く。連載漫画において終わりを美しく締めるというのはとても難しいが、本作は究極の完成度で成し遂げた作品だと思う。

ARIA 全12巻 完結セット (BLADE COMICS)

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